慣れ親しんだ畑作業を続けられる「おらほの家」

ストーリー/story|2014/12/01 posted.

グッドネイバーズストーリー #2  ~宮城県石巻市・野津さんの取り組み~

被災して介護施設が激減した牡鹿地区、送迎の足が問題に

宮城県石巻市に拠点を構える「一般社団法人キャンナス東北」は、2011 年3月、東日本大震災の直後に藤沢からスタッフが現地入りし、7月に一般社団法人として立ち上がりました。わたしたちが訪問した2014年7月の時点では延べ約16000 人のボランティアが訪れていて、医療系のボランティアとしては最大規模の人数を誇ります。

現在、この職場には看護師が2名、ソーシャルワーカーが1名、作業療法士が1名、その他にサポートスタッフが3名所属しています。作業療法士の野津裕二郎さんは、地域の高齢者の交流サロンの運営など、地域住民の健康管理をしながら暮らしを支える事業を多く担当しています。

石巻市内の牡鹿地区は、東日本大震災の被害を受けてからエリア内の公共交通が不足し、また高齢者を支援する施設も被災によって軒並み無くなってしまいました。結果、牡鹿のお年寄りたちは市の中心部にある施設にお世話になることになるわけですが、そこには問題がありました。通常、デイサロンやサービスを運営する施設では、利用者の送迎を行います。ところが、元々このエリアは市の中心部から遠く、送迎には長時間かかってしまうため、施設側から送迎を敬遠されがちです。お年寄りも家族もスタッフも、皆が頭を悩ませていました。

 

デイサービスがない地域にあえて支援拠点を作る

そこで、野津さんたちは、あえてデイサービス等の介護保険事業所などが少ない場所をめがけて高齢者支援拠点を設置しようと活動を始めます。高齢者が引きこもってしまっては、健康づくりもできません。キャンナスの事業のひとつ「おらほの家」は、牡鹿にある古い民家を改修した地域の高齢者が集う交流の場所です。ここには、小さいけれど畑があり、民家には自宅とおなじような居間や台所があります。利用するお年寄りたちは、毎回利用料を支払って毎週1度、おらほの家に集ってきます。「本当に楽しい」と言ってくれる高齢者が多く、野津さんも力を入れている事業です。

おらほの家の畑は、利用者のお年寄りと一緒に整備をしました。元々、牡鹿半島では農業が盛んで、農家ではなくても畑を持っていた人が多くいたのです。ところが、津波によって田畑は塩害にあい、畑を失ってしまった人も少なくありませんでした。こういった事情もあって、おらほの家に通う人たちは、慣れ親しんだ畑作業が再び出来る事を本当に喜んでいるのだそうです。

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“僕は作業療法士なので、どこの筋力が落ちている、どこの関節は痛そうだ、などをある程度は評価出来ます。何も特別なことではなく、作業療法士なら誰でもできることです。作業療法士は、その人の心を聞いてから、どんな作業をしてリハビリしたら良いかを考えるのが仕事です。畑作業はハッとすることもある危険性もありますが、見守りながら、危ない時だけ支えます。じっと見守っていると明らかに出来る事が増えているのが分かって僕もうれしくなるんです”

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慣れ親しんだ畑作業を続けられる環境が一番の予防策

おらほの家に通う人の38%は80 代、40%は70 代です。要介護認定を受けている人は全体の30%になります。介護施設への移動距離が長く、近くに助けを求められる医療施設も限られる牡鹿のような地域では、介護予防が非常に重要になります。ところが、家族は高齢になったおじいちゃん、おばあちゃんを気遣って、「危ないから」という理由でこれまでやっていた畑作業を止めてしまいます。また、作業療法士をはじめ介護予防に携わるスタッフの多くも、なるべくお年寄りを安全で安心な環境でサポートしたいという想いが強く、畑作業のように足元が不安定で転びやすい運動をリハビリプログラムとして採用したがりません。しかし、彼らにとって畑作業は慣れ親しんだ作業であり、この時期までに種をまいておく、という暦を刻むバロメーターにもなっているのです。それが家や施設で出来なくなってしまった今、おらほの家で畑を耕すことの意味は相当に大きいと思います。

“リハビリの目的として“いつまでも健康”というスローガンが掲げられがちですが、では、健康になった先にはどうするのでしょうか。リハビリは、運動機能の維持のための決まったプログラムではありません。その人自身のこれまでの生活を知らずに、リハビリすることはできないと思います。一人ひとりのお年寄りが、これまで何をやってきて、これからどんなことをしたい、ということを知ってからじゃないとリハビリの目的もわかりません”

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地域づくりと介護予防を結び付ける試みに挑戦していく

2014度、キャンナス東北は地域づくりコーディネート補助事業に採択されました。もともとは看護師やリハビリなどの専門的要素が多いキャンナス東北が、なぜ地区づくりのコーディネーションを担うのでしょうか。

“来年(2015年)から石巻市では復興公営住宅への転入が始まります。地域のつながりが失われて、健康管理も難しくなっています。自分たちが間に入って地域づくりの手伝いをしながら介護予防にも結びつけたいと思っています。地域での人とのつながりが出来れば、モデルケースになるのじゃないかと思っています。」作業療法士や看護師は、とても個人的な情報を知り得る存在です。当然、きれいごとではすまされない事情も多く知ることになります。しかし、ケアが必要な人の暮らしを十分に知った上で課題を把握し、彼らが自分のまちで自分らしく暮らしていくために、最善の方法を提案する。これは、デザイナーの仕事にもとてもよく似た重要な役割だと思います。訪問後、彼らの「人」に対する熱意とプロのスキルによって、持続的で誰にとっても暮らしやすい土地を築ける可能性に注目していきたいと思いました”

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